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留学体験記

【ドイツ】留学最終レポート

【派遣先】ルール大学ボーフム 【留学期間】2019年4月~2020年3月
経済学研究科 S.Yさん

 

はじめに

 ドイツ留学も終了となりました。留学を通してご支援・ご協力をいただいたみなさまには改めて御礼申し上げます。帰国後は再び福島大学の大学院で学ぶことになりますので引き続きよろしくお願いいたします。

 1年間を振り返りますと、学生兼社会人として日本で暮らしていた時とは全く別の多くの体験をすることができました。ドイツの習慣や生活の違いに日々とまどい、ドイツの宗教や民族のしきたりに日々驚き、ドイツの人間性や文化を日々学びました。中でも最大の収穫は、言葉があまり通じなくても異国を理解し異国で生きていけるとわかったことです。漠然とした不安から少しばかりの自信が芽生えるには十分な時間であったと思います。

▲ドイツ野菜の展示を見つめる少女

ドイツの研究(ビール)について

 ドイツの代表産業はビールです。国内に1300か所以上の醸造所があると言われています。日本のように大企業数社による経営というよりは、中小企業が乱立してそれぞれで経営している様相です。経営イメージとしては、日本の地ビール・クラフトビールに似ているかもしれません。

 ドイツビールの最大の特徴は原料です。ドイツにはビール純粋令という法律があり、原料は麦芽、ホップ、水、酵母に限られます。世界的にビール造りで使われているような米やトウモロコシといった副原料を一切使いません。原料にこだわりぬくのがドイツ流です。

 そして、各地域で様々な醸造、発酵がなされ、地域独特のビールができあがります。大学のあるノルトライン・ヴェストファーレン州にもアルト、ケルシュ、ドルトムンダーなど個性豊かなビールがたくさんあります。この個性こそ地域産業のキーワードに成り得るものだと感じます。

 色合い、香り、味、ノド越し、雰囲気と、ビール産業にはおいしさとおもしろさがあります。各地域のビールを飲み比べるとその違いがよくわかります。  
▲ドイツ1リットルジョッキビール

 また、ドイツでは16歳からビールが飲める点、酒税が低いため安い金額でビールが購入できる点、デポジット制により空き缶・空き瓶を返却するとお金が戻る点などの特色もあり、いくつかは日本でも参考にできそうです。

 しかし、居酒屋のトイレの前に清掃料金徴収用の小皿が置いてあったり、駅のトイレを使用する際はお金を払わなければならないというドイツの有料トイレシステムには、私は最後まで慣れませんでした。

ドイツの研究(ソーセージ)について

 ドイツはソーセージ産業も有名です。国内には1500種類以上ものソーセージがあると言われています。その昔、ドイツは土地がやせていたため作物があまりできず、豚を飼い食料としたのがソーセージの始まりとされています。ドイツの冬は長く厳しかったので、豚肉を燻製して長期保存ができるように加工し、多種多様なソーセージ文化が発達しました。

 ドイツではソーセージのことをヴルストと呼び、軽食屋台やレストラン、肉屋の店頭で見ることができます。小型で少し硬い丸パンに焼きヴルストをはさみ、マスタードをたっぷりかけて立食しているドイツ人は至るところにいます。ヴルストにトマト味のカリーソースをかけたシンプルな料理は、カリーヴルストとして手軽な国民食になっています。南ドイツでは、日本のはんぺんのように白くふわふわな食感のヴァイスヴルストが人気です。

▲手軽な国民食カリーヴルスト

 ドイツのソーセージを通して、豚肉料理のバリエーションの豊かさと奥深さ、そして手軽さを学びました。日本でもお祭りの屋台でフランクフルトが焼かれていたり、お弁当のおかずにウインナーが入っていたりと、ソーセージの食文化の下地はあります。あとは地域と食が融合することで、日本でもおもしろい地域ソーセージ産業ができあがると思います。

 ドイツの老若男女が愛するソーセージ。一品料理として食べてもよし、ビールのおつまみとして食べてもよしです。おいしいソーセージがドイツの魅力を確実に向上させています。

 しかし、チップの習慣がない日本で育ってきたため、飲食した際のお会計で金額の10%程度をチップとして支払うドイツの習慣には、私は最後まで煩わしさを感じました。

ドイツの研究(乳製品)について

 ドイツの北西部は酪農が盛んです。酪農から派生してミルク、チーズ、バター、ヨーグルトといった乳製品の生産も多いです。スーパーマーケットには日本ではお目にかかれないほどの乳製品がところせましと並んでいます。価格も日本と比べて非常に安いです。やはり酪農の国は気軽に乳製品が買える環境にあるのが一番の利点です。

 感慨深いのは、ドイツは大量の乳製品を国内で生産・消費していますが、同時に他国へ大量に輸出し、他国からも大量に輸入しているという事実です。店頭にオランダ産やフランス産のチーズが一緒に並んでいることも珍しくありません。他国の乳製品を共に味わうことができるのも、関税障壁がないEUならではです。

▲ドイツケーキの食べ放題

 日本においても、学校給食がそうであったように、幼少期から牛乳が頻繁に飲まれています。ちまたでは生クリームをたっぷり使ったケーキやチーズをふんだんにのせたピザなど、乳製品がおいしく食べられています。安くて購入しやすい乳製品を地域生産し、地域市場に提供できれば、おいしい地域循環ができるように思います。

 酪農から派生する乳製品はたいへん裾野が広い産業です。酪農を元にして様々な食材ができあがり、料理としてそれぞれのおいしさが広がります。さらに、ほかの食材との組み合わせで食材同士が引き立つという特異な相乗効果もあります。乳製品の食材対応力はすばらしいです。

 しかし、ドイツのスーパーマーケットがこれほど多数の乳製品を扱っているのに、日曜祝日は必ずお店を閉めなければいけないというドイツの閉店法は、私には最後まで難点でした。

学生の視点から

 私の場合は学生であり社会人でもありますので、両方の視点から留学を振り返ってみます。学生としては、何より日本を研究している学科の先生には助けてもらいました。ドイツ語がうまく聞き取れない、話もできない私に、先生は難解な部分をかみくだいて教えてくれました。それでもわからなければ日本語で教えてくれました。やはり親切な先生の存在は重要です。親身になって教えてくれる現地人がいたほうが、内容がより理解できますし、留学がより楽しくなると思います。


▲1年を通してお世話になったセッター先生と筆者(左)

 大学の授業では、テスト、プレゼンテーション、論文作成がありました。いずれもドイツ語です。ドイツ語の文章を考える際は、どうしても初め日本語で文章を組み立てて、その後ドイツ語に訳していく作業が発生します。わからない単語をひとつひとつ辞書で追っていったのでは提出期日までに間に合いません。このような時は、パソコンやスマホの翻訳機能が役に立ちました。完璧に翻訳してくれるわけではないですが、大まかなドイツ語文章の形をとらえることができます。ドイツ語の文章作成に不安がある場合は、現代の技術を駆使することもひとつの手段だと感じました。

 また、学習を行ううえで大学の図書館が真夜中まで開いていることは日本との大きな違いだと思います。深夜まで勉強していても、ちゃんと帰りの電車があります。学生への待遇とドイツのインフラには驚きます。加えて日本を研究する学科があることから、大学の図書館には日本語の蔵書も多いです。東アジア資料室の一画が日本語の本で占められており、幅広い分野の書籍が並んでいます。日本でもなかなか見ることのできない江戸時代の本を手にした時は驚嘆しました。ドイツの文献を読みながら、日本との国際比較を行う際などに参考になりました。

社会人の視点から

 社会人が留学する場合、留学準備の時から難題があります。福島大学から留学許可が下りても、職場の理解と家族の理解が得られるかが問題です。幸い私の場合は地方公務員であるため、職場内(条例)に自己啓発休業制度がありました。そのため、比較的容易に職場の理解は得られました。しかし、休職扱いになり、身分保障はあるものの給料支給はありませんでした。留学を考える場合はある程度の貯蓄は必要だと思います。家族の理解についても、私の家族は妻だけですが、協力的であったため一緒にドイツへ行きました。仮に子どもがいた場合は、転校などの問題もありますので熟考したかもしれません。

 そして、留学したあとも職場の引き継ぎの関係でしばらくドイツ・日本間で連絡を取り合う場合があります。ここで活躍したのがSNSです。スマホとインターネット環境さえあれば、LINEやFacebookを用いて無料通話やメールのやり取りができます。日本の情報をリアルタイムで拾い、ドイツに居ながら職場と話し合うことができるのはすごい技術です。ひと昔前の留学だったら高額な国際電話でしかやり取りできなかったでしょうから、技術の進歩とその速さには驚くばかりです。現代の留学は、昔から比べるとだいぶ精神的な負担が減っていると感じます。

 また、州都デュッセルドルフに福島県職員が派遣されてきており、福島県人会の事務局をしていることも大きなメリットになりました。福島県職員を通じてドイツの状況を教えてもらったり、ドイツにおいて福島県が関係する行事に参加させてもらったりしました。おかげで、ボーフム市の医療機器会社の社長とバーベキューをして直にお話を伺ったり、エッセン市の経済公社の職員とビール取り引きについて意見を交わすことができました。社会人としての留学の魅力は、仕事やビジネスにつながる話ができる点にあると思います。

▲ドイツデュッセルドルフメッセ(医療機器大規模展示会)へ出展する福島県企業団

さいごに

 2020年2月1日、ヨーロッパではついにイギリスがEUから離脱しました。民族や宗教の違いを乗り越えての地域共存を命題に掲げた、人類最大の社会実験は曲がり角に来ています。イギリスのEU離脱派の人々は「この離脱は偉大なイギリスの幕開け」と表現しています。

 海を隔てたドイツでは、イギリスのEU離脱を憂う声が多くあります。しかし、私の住んでいたアパートの70歳の大家さんは次のように言います。「イギリスが偉大になりたいのと同じように、強いドイツを再び望むネオナチが台頭してきている。ドイツも先行きが心配だ。」

 世界では自国第一主義を標榜する国が増え、ヨーロッパでもEUの先行きはますますわからなくなってきました。ドイツに滞在していた私としては争いのない世の中を切望するばかりですが、世界は絶えず動いているというのが実感です。ヨーロッパ情勢には今後も注視していこうと思います。

 一方、日本に目を転じれば、福島では原発事故後の長い廃炉作業が続いています。汚染水や最終処分場の問題もあるのですが、何より風評被害で失った福島ブランドの信頼回復の問題が大きいです。しかし、福島の問題も絶えず動いていますし、良い方向へ動かさなければなりません。今後、私もドイツでの経験を地元産業に少しでも役立てるべく努力していきたいです。